選手インタビュー: 山西 利和

 2020年東京オリンピックに向けて、競歩選手に特別インタビューをしました。第2回は、現在男子20kmの世界ランキング1位である山西利和選手。
 世間ではトレードマークのメガネや京大卒に注目が集まりますが、競歩に対する考え方や、日本選手権での惨敗から、翌月の復活優勝までの秘話など、社内のインタビューアーだからこそ踏み込めた内容が盛りだくさんです。
ぜひご覧ください。

       



         2019 IAAF競歩GPスペイン・ラコルーニャ20kmW
                   
日本人初優勝となった

―久しぶり!最近、会社来れてる?笑

 5月は中旬に1週間ぐらい来ることができたので、比較的多く出勤できた。6月、7月は2日ぐらい。

―スペインでの優勝のニュース見たよ。日本人初優勝、おめでとう!調子良さそうだね。

 ありがとうございます。ある程度いい調整ができているかな。

―スペインは10月の世界選手権の前哨戦?

 それに近い。1番マークしていた選手が出ていなかったけど、ある程度メンバーが揃っている中で勝ち切るという今回の目標をきっちり達成できた。このレースだけを評価すれば70〜80点ぐらい。

―帰りにドーハに行って、世界選手権のコースの下見をしたと聞いた。

 少し雰囲気をつかめた。今回のレースは夜。夜でも気温は30度以上あったので涼しくはなかったけど、日差しがなく、湿気が低かったので、日本の熱帯夜と違って気温の割に暑さを感じなさそう。

―それでは本題に入ろう。まず、競歩を始めたきっかけは?

 中学までは長距離を走っていて、3000mの地区予選で負けてしまうレベルだった。当時は勉強の方が向いていると思って、京都の公立高校に一般入試で入学した。

 走ることは好きだったので、この高校であれば自分でも楽しく走れるかなと思って陸上部に入部した。そこで陸上部顧問の恩師と競歩の先輩に出会ったのが、競歩を始めたきっかけ。

―競歩を始めてどうだった?

 顧問の勧めで、高1の6月に練習で歩いてみた後、おもしろそうだと言ったら、翌日からのメニューに競歩が組み込まれていた(苦笑)。

 それから長距離走と競歩を並行して練習し、8月に競歩の京都府新人戦に出た。その大会で優勝でき、近畿大会でも4位に入れた。練習してフォームを改善するだけで、記録が伸び、結果が出て楽しかった。最初はそんな感じかな。

―その後、全国大会出場どころか、高校世界チャンピオンになるなんて!どこかの時点で、純粋に勝つことだけから競技を究めるという楽しみも感じるようになると思うのだけど、競技の奥深さを知ったのは?

 高校時代は、基本的に自分の動きしか気にしていなかったけど、大学2年で自分よりはるかに強い日本代表選手に接するころから、同じ「歩く」でも意外にいろいろなタイプがあるようだと分かった。そのあたりから、競歩を見る感じが変わってきた。

―いろいろなタイプ?

 説明するのは難しいけど、大きく分けて、着地した時に「力を開く選手」と「力をまとめる選手」の2つあると思っていただきたい。

 「力を開く」は、地面と足が接地している間、主に後ろ足の筋力で前への推進力を生みだしているイメージ。競歩は地面との接地時間が長く、その間に地面に力を伝える時間を確保できるので、こちらの選手が多いと思う。丸尾さんはこちらのタイプだと思う。

 一方、「力をまとめる」は、地面に着地する一瞬のタイミングにリズムよく力を集中させ続けて、力を入れなくても勝手に進むイメージ。走っている時の感覚に近いかな。その一瞬の着地のタイミングに、姿勢や関節、骨盤のポジションや角度など、すべて一本にそろえないといけない。

 「力を開く」歩き方は前への推進力に力を使うけど、「力をまとめる」歩き方は、姿勢を維持するのに力を使う。疲れて姿勢が維持できなくなるとタイミングがずれてくる。実際、どちらが正解か分からないが、今の僕の理想は「力をまとめる」歩き方。

―「力をまとめる」歩き方の追及が山西選手にとっての競歩の奥深さ?

 理想の動きをどう作るかはおもしろい。もちろん競技である以上、理想の動きは本質ではないけど、それが必ずスピードにつながると思うので、それを追求することは競技で闘う武器になるのではと思う。

―今は理想の動きに近づいてる?

 最近は近づいているけど、入社以来、理想のタイプとは逆の力を開く癖がついてしまっていて、どうも動きがしっくりこないというのが1年続いていた。アジア大会で銀メダルを獲れたけど、感覚的にはおかしかった。それが悪い方にでてしまったのが、2月の日本選手権。



2019 中部実業団対抗



いつもはこんな格好で仕事に勤しんでいます!

―ゴールした時、山西さんの悔しがっている顔が印象的だった。

 調整段階では100の準備をしていると思っていたので、ゴールした時は自分の不甲斐なさでいっぱいだった。

 ただ、レース後に記者と話をしている中で自分の考えが整理されてきて、80の準備しかできていなかったことが分かった。しっくりきていない動きに手を付けきれないまま、本番に臨んでしまった。

 きっとスタートラインに立っていた時、自分を信じ切れていなかったと思う。実際、その動きだとラストスパートへの切り替えが難しく、アクセルを踏み込んでも空転してあまり加速しない感じだった。

 ただ、このような分析ができたので、1カ月後の全日本競歩に向けた切り替えがスムーズにいった。

―とはいっても、1カ月でそんな根本的ともいえる修正をしたのがすごい。

 やるしかなかった。自分を信じられないと戦えない気がした。悪い癖を直すため、腰にチューブを括って倒れて力を使わずに自然に進む感覚を養うなどして、歩きのイメージを根本的に変えた。

 実際、イメージを変える怖さもあったけど、怖いからといって引いてしまったら、このレベルで競技している意味がない。 

―それを乗り越えたからこそ、全日本競歩でガッツポーズが出たんだね。

 ゴールの瞬間は純粋にうれしかった。今までも学生のオリンピックとも言われるユニバーシアードぐらいでしかないかな。

 高校時代は、ゴール後に失格というリスクがあるので、そもそもガッツポーズをすることができなかった。今は、それまでにもらった注意数などから、ゴール後の失格リスクがあるかだいたい分かってくるので、安心感もあったのかな。ただ、ガッツポーズして失格になったらとんでもない(笑)

―次は、いよいよオリンピック日本代表をかけた世界選手権だね。

 今はだんだん動きを操れるようになっている気がする。全日本競歩とスペインで勝てたので、勝ちパターンや勝つことに対する再現性が高まってきている。ただ、スペインで感じたのは、レースを作ったのは別の選手であり、自分にはまだレースの展開をリードする能力が足りないこと。

 今回スペインで勝つことだけを考えたらそれでいいけど、今後勝ち続けるためには、自分でレース全体をコーディネートする力を身につけないといけない。この夏にその力をつける必要がある。地力はまだまだ足りない。

―オリンピックとはどういう存在?

 難しい…オリンピックも世界選手権も1つの大会と考えている。仮に競歩で1回金メダルとっても世間の人の記憶には残らない。

 ただ、今回は東京なので少し違うかも。いろいろな方にインパクトを与えられるのではないかと思う。

―応援してくれている人にメッセージをください。

 感謝の気持ちしかない。社員のみなさんの頑張りがないと陸上部は活動できない。僕たちは結果という形でお返ししたい。

 プレッシャーを感じないようにと言ってくださる人もいるけど、社員の人の優しさに甘えてはいけないと思う。本当にありがたい。 


山西 利和(やまにし としかず)
出身:京都府
2018年度入社
164cm/54kg

山西選手のプロフィールは コチラ